「食文化」というものはもやもやしていて、「食文化」とはこれだ、とはっきりとした言葉や形で示すことが難しい。 しかし私は、食文化栄養学科に入り学年を上がるごとに、「食文化」のイメージが自分の中に少しずつ作り上げられてきたという実感がある。 そんな「食」や「食文化」を、食文化栄養学科の学生たちの目を通すと、どんな形になって表れるだろうか。
女子栄養大学では、今年の夏もオープンキャンパスがおこなわれた。 その場で、初の試みとして食文化栄養学科の学生が中心となって “ぎりぎり食文化展”という企画を考え展示した。
この学科では、食を幅広く学ぶ。女子栄養大学においては、栄養・健康が真ん中の「食」としてイメージされるだろう。 しかし、文化の側面からとらえると、実際は「これも食なの?!」と思われるところにも―デザイン・流通・空間のような―、 食は色濃く存在している。それは実際の食物でなはないせいか、人はそれらを「食」として最初に捉えようとしない。 一見「食」という言葉からは連想されにくいが、それらは真ん中の食に密接に繋がっている。もっとおぼろげな位置の食もある。 どこからどこまでが食なのか、人がぎりぎり食と思わなくなるような領域の食も含めて表現したいという思いから、“ぎりぎり”という言葉を使った。
“ぎりぎり”とは、物事の限界・超えてはいけないラインを意味している。
食の可能性、自由さ、そしてそこから発想できることがあるという想いを、この展示で五感で感じる形として表現したいと考えた。 展示場に足を運んでくださった人たちの記憶に残り、無意識に「考える」「体感する」ことができる展示会を作ることができたと思う。 来てくださった方との交流のきっかけとなり、食文化栄養学科がもっと賑やかになれば、という想いによりこの企画は成り立っている。
展示物は、食の香りに関するもの、食品パッケージに関するもの、世界の給食に関するものなど全部で6種類。 なかでも、「絵しりとり」は、もっとも交流のきっかけになった展示のひとつだ。
「絵しりとり」というのは、来てくださった方に食べ物の絵を描いてもらい、そして次に来た方がその絵を見て、 しりとりの続きを描いていくというものだ。ここで使う絵の具は普通と違い、市販のものではない。 この企画のために、自分たちで食材から色を抽出し、そこから絵の具を作った。
スタッフが声をかけると「じゃあ、やってみようかな」と描いてくださる方から、積極的に描いてくださる方もいらっしゃった。 その他に、自分が描いた絵がどのように次につながったか見に戻ってくる方、様子をじっとみている方など、 来てくださった方たちのつながりも見えた。
なによりも嬉しかったのは、「学生さんと会話すると、みなさんの顔が楽しそうで、この学科がどのようなものか、 顔を見るだけでわかる」と言っていただいたことだ。展示物を通して、食文化栄養学科について深く知っていただけたように感じた。 それ以上に、実際にこの学科で学んでいる学生が、自ら考え、形にすることを自然と身に付けていること、 また、その生活をどれだけ楽しみ、生き生きと過ごしているか。それを感じ取ってもらえた手ごたえがあった。 「食って、こんなに幅広いのですね。驚きました」という声もあった。この企画によって、食のおもしろさや幅広さを表現し、 伝えることができたのではないかと思う。
物事の限界・超えてはいけないライン、この言葉を見ると、うずうずする。超えてしまいたい、限界を壊したくなる。 今回の展示では、真ん中からぎりぎりまで展示したつもりだったが、終わってみると、まだぎりぎりまで距離があったようにも思える。 来年、展示会が行えるかわからない。しかし、企画した私たち自身が、もっとぎりぎりまで迫った展示をみたいと思うようになってしまった。 来年までぎりぎりを極めていきたいと思う。
(食文化栄養学科 ・ 3年 T.N./2014.09.28)